SIMを解説~音声通話SIMとデータ通信SIM、eSIMやnanoSIMとは?
2022.08.05
今回は「SIM」についてです。
SIMの前後にさまざまな言葉が付いた「SIM」を目にすることが多いと思いますが、いろいろな「○○SIM」「SIM○○」があって、何がなんだか分からないという方も少なくないと思います。
そこで今回は、モバイル通信や格安通信を理解するうえで避けて通ることのできない「SIM」について分かりやすく解説していきます。
本稿で解説する「SIM」は以下の3通り7種類の「○○SIM」と、関連する3つのワードです。
(1)音声通話SIMとデータ通信SIM
(2)SIMカード(物理SIM)とeSIM
(3)標準SIM、MicroSIM、nanoSIM
(4)SIMロック、SIMフリー
(5)格安SIM
そもそもSIMってなんだろう?基本の「き」をおさらい
「SIM」は「シム」と読みます。
「SIM」は「Subscriber Identity Module(サブスクライバー アイデンティティ モジュール)」の頭文字をとって短縮した言葉で、直訳すると「加入者識別モジュール(構成部品)」です。
何も情報を持っていないスマートフォンに「情報」という命を吹き込む「ICチップ」のイメージで、異なるSIMを挿入すれば、差し換えたSIMの情報でスマートフォンを使用できるモジュール(交換可能な構成部品)です。
簡単にいえば、通信サービスの契約者情報や電話番号、識別番号などが書き込まれた小さなボード(チップ)で、スマホにSIMを挿入することで、はじめて電話をかけたり受けたり、通信を行うことが可能になります。
音声通話SIMとデータ通信SIM
音声通話SIMとデータ通信SIMは、通話や通信など、担う役割によって分類したSIMの種類です。
つまり、元々データ通信(インターネット)が可能なデータ通信SIMに、音声通話SIMは「音声通話(つまり電話)」機能を付加したもの、データ通信SIMは、通話機能を付加せず「データ通信(インターネット)」のみが可能なSIMを指します。
音声通話SIMとは
「音声通話SIM」は、音声通話(電話)機能を持ったSIMであり、通話専用回線を使用した通話が可能で、省略して「通話SIM」と呼ばれることもあります。
固定電話、スマートフォン、携帯電話(ガラケー)、公衆電話、IP電話(050)等との通話が可能です。
また「音声通話SIM」の機能は、通話のみということではなく「データ通信」も可能です。
というよりも、データ通信SIMに音声通話機能を付加したものが「音声通話SIM」ですので、データ通信は元々できる上に通話も可能にしたSIMなのです。
データ通信SIMとは
「データ通信SIM」は、データ通信(インターネット)専用のSIMで、音声通話機能が付属しません。
Webを閲覧するだけでなく、メールの送受信、SNSの閲覧や書き込み時にもデータ通信を行っていますし、動画や音楽の視聴(ストリーミング)、ゲームやアプリのダウンロードやデータ更新など、インターネットを介してさまざまなデータのやり取りを行っています。
したがって「データ通信SIM」は、スマートフォンやタブレットを2台目やデータ通信端末として利用する方や、ノートパソコンの通信などにおすすめのSIMとなります。
音声通話SIMとデータSIMの使い分け
上記で、通話が可能なSIMが「音声通話SIM」、インターネットなどのデータ通信ができるSIMを「データ通信SIM」と区分けしましたが、例外も含めて「音声通話SIM」と「データ通信SIM」の使い分けについて解説します。
データ通信SIMでも通話が可能
先に、通話(電話)をする場合には「音声通話SIM」が必要だと書きました。
しかし、実はデータ通信専用SIMであってもインターネット回線を経由して音声通話が可能なサービスもあります。 いわゆる「IP電話」です。
IP(Internet Protocol)を利用した通話方式やその通話サービスを「IP電話」といいます。 インターネット回線を使用するため、電話回線への接続が可能な「音声通話SIM」不要で通話ができ、IP電話同士はもちろん、音声通話回線との相互接続も可能です。
ちなみに、利用者同士なら無料で通話可能な「LINEでんわ」もインターネット回線を介した「IP電話」サービスです。
データ通信SIMの毎月の基本料金は、音声通話SIMよりも割安ですし、通話料金自体も、IP電話の方が通常の電話料金よりも割安な料金で通話できるのがメリットです。
IP電話は音声通話SIMの代わりとしておすすめできない
IP電話は、月額基本料金が音声通話SIMよりも安いデータ通信SIMで通話でき、通話料金自体もIP電話の方が割安な設定であることから、音声通話SIMを契約せずにデータ通信SIMをメイン回線として契約するケースが見られます。
しかし、音声通話回線なしでデータ通信SIMだけの契約はあまりおすすめできません。
通常の通話回線での通話より音質が劣る場合がある上、さらに「110/119/118」等の緊急通報や、「107/117」等の3桁通話、フリーダイヤルなどに通話発信できないなどの制限があります(110…警察、119…消防・救急、118…海上保安庁)。 特に、LINEでんわを含むIP電話で緊急時の通報ができない点は大きなデメリットです。
緊急通報できないということは、もしあなた自身が外出中に急に具合が悪くなっても自ら救急車を呼べない…ということです。あるいは、あなたが交通事故現場に遭遇したとして、その場で通報できる者が自分だけという状況下でも、IP電話しか契約していない場合には警察や救急への通報ができないことになります。
さらに、停電時にはルーターなどが動作せずインターネットの電波が飛ばなくなるため、データ通信が不通となり、データ通信を利用するIP電話も使用できなくなってしまいます。
これは、災害などで停電になった際に、IP電話では外部への通話・通報ができないことを意味します。
こうした緊急時・災害時の通話・通報を考えれば、IP電話はメインの通話方法としてはリスクをともなう場合があることを覚えておきましょう。身の危険に鑑み、安易にIP電話やLINEでんわだけの通話環境はおすすめしません。
音声通話SIMとデータ通信SIMの使い分け
以上を踏まえ、音声通話SIMとデータ通信SIMのおすすめの使い分けについてまとめます。
「音声通話SIM」の契約をおすすめするケース
・1回線(メイン回線)のみ契約する場合(緊急通報、停電時でも通話可能)
・他社から電話番号を移転(MNP)する場合(データ通信SIMでは電話番号は消滅)
・メールやSNSよりも電話利用が多い場合
「データ通信SIM」の契約をおすすめするケース
・2台目スマートフォンやタブレットなどでデータ通信を行う場合
・ノートパソコンやゲーム機等のガジェットでデータ通信を行う場合
・メイン回線以外にサブ的な電話番号(仕事用など)が必要な場合
「データ通信SIM」のみの契約をおすすめできないケース
・IP電話やLINEでんわをメインの通話回線にする(音声通話SIMを契約しない)
音声通話SIMとデータ通信SIMの知っていると得する話
ここでは、ここまで解説した「音声通話SIM」と「データ通信SIM」に関する話題で、知っていると得する話や、「へぇ~」な雑学的なお話を紹介します。
通話料金とデータ通信料金の課金方法の違い
料金面から「通話」と「データ通信」を見てみると、固定課金制と従量課金制の違いがあります。
通話料金は月額基本料金の他に、通話30秒ごとに通話料金が従量制(使った分だけ)で加算されますが、データ通信料金はいったん定めた月間データ容量の範囲であれば料金は固定されていて、いくら使っても追加料金は発生しません。
なお、同じ通話でも、音声通話回線による通話は通話料金として請求され、IP電話やLINEでんわは、データ通信料(パケット通信)として、月間の契約データ容量を消費する形で請求されています。
音声通話は「VoLTE」で通話音質が向上
「VoLTE(ヴォルテ)」は、従来3G通話回線を使用していた通話をLTE通話回線を介することで高音質通話を実現する技術です。
VoLTEは「Voice over LTE」の略で、LTEは「Long Term Evolution」の略です。
4Gとも言われるLTE網は、3Gに比べて高速通信が可能な通信網ですが、通話用として想定されていないため、「VoLTE」では通話音声やビデオ通話をデータ(パケット)としてLTE網に乗せて伝送することで、3G通話に比べて雑音が少なく高音質な通話を可能としています。
国内では、NTTドコモ/au/ソフトバンクのいずれでも「VoLTE」による通話に移行済みであり、各社回線を使用するMVNOであっても「VoLTE」通話が標準となっています。
「データ通信SIM」の項で、IP電話は通常の音声通話よりも音質が悪いと書きましたが、音声通話が「VoLTE」になったことで、さらに音質は向上し、クリアで雑音の少ない通話が可能になっています。
音声通話SIMは電話番号、データ通信SIMは識別番号
常識的な話ですが、音声通話SIMには電話番号が紐づけられています。
スマートフォン端末の「モバイル通信」の項を参照すると、電話番号が表示されています。
ではデータ通信SIMはどうでしょう?
実は、データ通信SIMでも「090/080/070」から始まる電話番号のような番号が記載されていますが、これは「識別番号」と呼ばれるもので、電話番号を持たないデータ通信SIMを識別する際に使用する番号です。 この番号に電話をかけても通話はできません。
発信者番号通知の有無~「184/186」付加
「音声通話SIM」利用時の通話発信において、相手先電話番号の先頭に「184・186」を付加すると、発信者(自分)の電話番号を相手の端末ディスプレイに表示させるか否かを区別できます。
この機能は、「音声通話SIM」利用時のみ有効で、IP電話では使用できない仕組みです。
先頭に「186」を付加して通話発信すると相手端末のディスプレイにこちらの電話番号を表示させることができ、さらに相手が電話帳に名前などを登録している場合には、発信者名として表示させることができます。
「184」を付加して発信した際には、こちらの電話番号は表示されませんし、たとえ電話帳に登録されていても、電話番号を通知していないので発信者名も表示されません。
電話番号は昔は11桁ではなかった
余談ですが、携帯電話(現在ではスマートフォン)の電話番号は先頭が「030」で、全部で10桁でした。
次第に携帯電話の契約数が増えてきて、「030」だけでは足りなくなり、「010/020/040/080/090」と先頭に使われる数字が増えてゆきましたが、いよいよ10桁ではどうにもならなくなり、1999年についに11桁となりました。
その時の先頭の数字は「090」のみとなり、元の電話番号の先頭が「010→1」「020→2」「030→3」を090の後ろ(4桁目)に付加することで11桁となりました。 それでも足りずに、先頭3桁に「080」「070」も使うようになり現在に至ります。
ちなみに、10桁の頃に「いい番号」だった電話番号が、4桁目に1文字入ることで全然良くなくなってしまった…という話しをよく耳にしました。
また現在でも、時々「090-3xxx-xxxx」の番号が貴重だ…という話がありますが、それは、090の次の数字が「3」の電話番号は、携帯電話の誕生当時に使われ始めた番号だからです。
とはいっても、電話番号は解約されると、一定期間後には別の契約者に再度割り振られますので、必ずしも1990年代から使われ続けてきた番号とは限りません。
SIMカード(物理SIM)とeSIM
「SIMカード」(物理SIM)と「eSIM」という言葉も耳にしたことがあると思います。
こちらの言葉は、SIMの形状の違いを表しています。
SIMカードとは、従来から使用されてきたプラスチックの小片で、スマートフォンの「SIMカードスロット」に挿入するSIMであり、実体があるため「物理SIM」と呼ばれることがあります。
eSIMは「embedded SIM」の略語で、「embedded=埋め込まれた」の意味そのままのSIMで、スマートフォンにあらかじめ組み込まれたSIMカードにオンラインから「契約者識別情報」等をセッティング(書き込み)できる実体がないSIMカードを指します。
SIMカード自体は、通信キャリア(NTTドコモ/au/ソフトバンク/楽天モバイル)がユーザーの申し込みを受けて発行するもので、各社でSIMカードのデザインが異なります(eSIMは実体がないのでデザインは存在しません)。
eSIMのメリット①~申し込み→利用開始が早い
eSIMは、SIMカードとしての実体がない点が最大の特徴ですが、それによるメリットがあります。 申し込みから利用開始までが早いことです。
従来のSIMカードの場合は、利用希望者から契約申し込みがあると、審査のうえで契約可となった場合、SIMカードに契約者情報や電話番号などを書き込んで、郵送や宅配で契約者自宅へ届ける必要があり、これに最低でも中1日を要していました。
しかし、eSIMであれば、契約者情報や電話番号などの情報をオンラインからスマートフォンに設定できるため、配送にかかっていた中1日のインターバルが不要になり、審査に通りさえすれば、申し込み当日中の開通~利用開始も可能になりました。
eSIMのメリット②~複数のSIMをインストール可能
従来のスマートフォンは物理SIMを挿入するため、物理的なスペースが必要になり、Androidスマホでも最大2枚のSIMカードしか同時に挿入できませんでした。
挿入された2枚のSIMカードを、両方同時に切換えて利用可能な「DSDS(dual-SIM dual-standby)」機能を利用可能でしたが、SIM3枚を挿入しておける端末は存在しませんでした。
eSIMが登場してこの点も大きく変化しました。
例えば、iPhoneの場合、eSIM対応であれば特に枚数の上限はありません。
何枚でも好きなだけインストールしておくことは可能で、「設定」を開いて有効・無効を切り替える必要はありますが、その都度、好きなSIMを利用可能です。
国内で仕事用とプライベート用、海外3カ国で別のeSIMをインストールしておいて、現地では切り換えて使用することが可能です。
eSIMのメリット③~SIMカードの紛失や破損がない
eSIMは、物理的なカード実体がないためSIMカードを紛失したり、破損・汚損などの可能性がありません。
また、機種変更等の何らかの事情でeSIMを再発行・再インストールする場合でも、多くの事業者がオンラインからの申し込みであれば「手数料無料」としており、再発行手数料を取られていた物理SIMとの違いが顕著です。
eSIMのデメリット
そんな「いいことずくめ」のようなeSIMですが、少なからずデメリットもあります。
(1)ほとんどのMVNOではeSIMを提供していない
これが現在のeSIMの最大のデメリットです。いわゆる格安SIMと言われるMVNOでは自らSIMカードを発行できないため、利便性の高いeSIMも提供できません。
元々オンラインでの申し込みが主流のMVNOこそ、当日から利用開始可能なeSIMのメリットが生きるのですが、現状ではほとんどのMVNOでeSIMは提供していません。
(2)オンラインやスマートフォン操作に疎いと負担が大きい
申し込み手続き、本人確認書類の提出など、スマートフォンをある程度使いこなせる人でないと、オンライン申し込みやeSIMの契約~インストールは難しい現実があります。
そういう意味では、eSIMはある程度のリテラシーを契約者に求めるSIMといえます。
実際には特別難しい操作が求められるわけではありませんが、ネットやスマートフォンが苦手の方には少しハードルが高く感じられるかもしれません。
標準SIM・Micro SIM・nano SIM
「標準SIM」「Micro SIM」「nano SIM」は、SIMカードの大きさの違いを表しています。
「標準SIM」は、主に携帯電話(ガラケー)に用いられていたSIMカードのサイズで、現在のスマートフォンではまず使われていないサイズです。
「MicroSIM」は、標準SIMより小さいSIMカードですが、こちらも現在のスマートフォンでは主流ではありません。
現在、スマートフォンに用いられるSIMカードサイズは「nano SIM」が主流で、iPhoneは、デュアルSIM対応ですが、物理SIMは「nano SIM 」1枚、eSIMは制限なしでインストールすることが可能となっています。
SIMロック、SIMフリー、格安SIM
他にもSIMが付く言葉があります。
(1)SIMロックとSIMフリー
ここでいうSIMとは「通話・通信サービス」を表します。
「SIMロック」とは、通信回線を保有するNTTドコモ/au/ソフトバンクなどの大手キャリアが、自社販売のスマートフォン端末を他社の通信回線で利用できなくする施策です。
また、「SIMフリー」とは、スマートフォン製造メーカーの直販(Apple Store、Google Storeなど)や、Amazon、楽天市場などのネットショッピングで販売され、通信会社に関わらず利用可能なことを指します。
(2)格安SIMとは
ここでいうSIMも「通話・通信サービス」です。
自社通信網を保有するNTTドコモ/au/ソフトバンクの大手キャリアよりも割安な料金で利用可能なモバイル通信サービスを「格安SIM」と言います。
「MVNO」は、自社通信網を持たず大手キャリアから回線を借り受けて通信サービスを提供する事業者で、自社通信網を敷設・保有・管理を行わないことから割安な料金で提供できるため、代表的な「格安SIM」事業者です。
大手キャリアが「MVNO」への対抗策として、自社内に作った第2ブランドも割安な料金プランを提供しており、「サブブランド」と呼ばれます。 これらを総称して「格安SIM」といいます。
音声通話SIM/データ通信SIM、eSIM、nano SIMまとめ
今回はさまざまな「○○SIM」についてみてきました。
「SIM」に関する疑問や不明は晴れましたでしょうか。
通信会社との契約の場合には、さまざまな「SIM」を選択しなければなりません。
中でも、「音声通話SIM」と「データ通信SIM」の選択は重要です。
「データ通信SIM」では、基本的には電話はできません。IP電話等の「データ通信SIM」でも通話可能なサービスもありますが、通話先が限定されていたり、停電時に使用できないなどの決して小さくないデメリットもありますので、通話に関しては「音声通話SIM」の契約が安心に繋がります。
「データ通信SIM」よりも「音声通話SIM」の方が、月額料金は割高にはなってしまいますが、いざという時のことを考えれば、基本的な契約は「音声通話SIM」ではないかと思います。
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