農業用ドローンの4つのメリットとは?|種類と活用事例を解説

2025.01.31

農業分野で慢性的な人手不足や高齢化が進む中、生産性を向上させる新たな解決策として「農業用ドローン」に注目が集まっています。「『ドローンが農作業に役立つ』って聞くけど、実際にどんな作業に使えるんだろう?」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

本記事では、農業用ドローンの種類や導入するメリットに加え、具体的な活用事例も解説します。ドローンを使って「効率的で持続可能な農業を目指したい」と考えている方は、ぜひ最後までお読みください。

農業用ドローンの種類と活用法

農業用ドローンといえば、農薬散布のイメージが強いですが、以下のような幅広い作業にも活用されています。他にも農作物や資材の運搬に活用される場合があります。

農業用ドローンの活用例

  • 播種用ドローン
  • 農薬散布ドローン
  • 肥料散布ドローン
  • 授粉専用ドローン
  • センシング用ドローン

播種用ドローン|手間を省いて労力軽減

画像引用元:農業分野のドローン活用事例 – ドローンによる直播|農林水産省[PDF]

従来の稲作では、ハウスなどで苗を育ててから田植えをする方法が一般的でした。この作業にドローンを活用すれば、苗を育てて植え替える手間を省き、大幅な労力軽減が可能となります。

例えば、従来の直播機を使用する場合、10アールあたり10分間かかっていた作業が、ドローンを使用すると約2分で完了できます。作業時間を約80%削減できるこの技術は、多くの水田を管理する農家にとって非常に魅力的です。

さらに、肝心の収穫量についても心配無用です。 農業技術を研究する株式会社アグリッシブでは、16ヘクタールの水田のうち、1.6ヘクタールをドローンを活用した直播で管理しています。 その結果、直播機を使った場合や移植栽培と同等の収量が得られています。

このように、ドローンは効率性に優れているだけでなく、生産性においても引けを取らない技術です。ドローン技術は、農業現場の省力化を推進し、特に高齢化が進む農業分野において有用です。

ポイント
省力化:育苗・移植の工程を省略し、負担を軽減
作業効率:従来の1/5に短縮可能
収量:従来技術と同等の収穫を実現

参考情報:農業分野のドローン活用事例|農林水産省[PDF]

農薬散布ドローン|作業負担の軽減と安全性の向上

農薬散布ドローンは、農業の効率化と安全性向上を目的として導入が進んでいる革新的なツールです。日本では、農家の高齢化や若年層の都市部への流出が進み、「担い手不足・労働力不足」が深刻化しており、この課題を解決する手段として注目されています。

農薬散布ドローンが注目される理由

1. 作業負担の軽減と効率化

従来、農薬散布は重労働を伴い、防護服を着用しながら時間をかけて手作業で行うのが一般的でした。しかし、ドローンを活用すれば広大な農地でも短時間で散布が可能になります。これにより、高齢者でも扱いやすく、農業従事者の負担軽減につながります。

2. 安全性の向上

農薬散布ドローンは遠隔操作が可能で、作業者が農薬に接する必要がありません。従来の散布方法では、霧状の農薬を吸い込むリスクや身体に付着する危険性を避けられませんでした。この点、ドローンなら農薬と一定の距離を保ちながら作業を行えるため、作業者の健康被害リスクを大幅に抑えられます。

3. 国による普及促進

農林水産省が設立した「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」をはじめ、国も農薬散布ドローンの導入を支援しています。2023年度にはドローンによる農薬散布面積が延べ100万ヘクタールを超え、その普及のスピードは年々加速しています。

ドローンによる農薬散布面積の推移(延べ面積)

画像引用元:ドローンによる農薬散布面積の推移|農林水産省

ドローン散布に適した農薬の登録状況

ドローン散布には高濃度・少量の農薬が求められるため、適した農薬の登録が重要です。農林水産省によれば、2024年4月時点でドローン専用の農薬登録数は1,309品目に達しています。これにより、幅広い作物への対応が可能となり、農薬散布ドローンの実用性がさらに高まっています。

ドローン散布に適した登録農薬数の推移(累計)

画像引用元:ドローン散布に適した登録農薬数の推移|農林水産省

農薬散布ドローンの未来

農薬散布ドローンは、作業効率を向上させるだけでなく、農業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するツールとしても期待されています。AIやセンシング技術と連携し、ピンポイントで必要な場所に農薬を散布する技術の発展が見込まれます。また、環境負荷を抑えた持続可能な農業の実現に向けて、さらなる進化が期待されています。

さつまいもやレンコンといった可食部が地下にある作物は、上空から農薬を散布しても直接可食部にかからないため、農薬散布の実証実験が各地で行われており、効率的な農薬散布の可能性が広がっています。ドローンによる散布技術の発展が、農作業の負担軽減と収量の安定化に寄与するでしょう。

ドローン散布に適した作物別の登録農薬数

引用元:ドローンに適した農薬の登録数 – 2024年4月1日[PDF]

参考情報:農薬の空中散布における安全ガイドライン[PDF]

ドローンを飛行させる際の法的な制約
ドローンによる農薬散布には法的な制約があるため注意が必要です。特に、人や住宅街が密集している地域での飛行や、航空法で禁止されている「物件の投下」に該当する使用には、国土交通大臣への事前の許可・承認が必要です。
この申請には、一定の飛行経験やドローンに関する専門知識が求められるケースが多いため、情報収集して準備しておきましょう。詳細な規定や手続きについては、国土交通省の公式Webサイトを確認してください。
参考情報:ドローンなどの飛行ルール|国土交通省

肥料散布ドローン|効率的な追肥で生産性向上

肥料散布ドローンは、農薬散布と同様に農業現場での作業効率を向上させる手段として注目されています。肥料散布ドローンは、従来の手作業やトラクターによる散布に比べ、短時間で広範囲に均一な肥料散布が可能です。

【ドローンで追肥する際の注意点】

空中散布専用肥料を使用する

ドローンによる肥料散布では、「空中散布」を想定して開発された専用肥料を使用することが重要です。これにより、ドローンから散布しても肥料としての効果を発揮します。

粒剤の肥料散布に対応できる機種を選定

液剤や粒剤に対応する散布装置を簡単に切り替えられるドローンもあり、用途に応じた柔軟な運用が可能です。農業用ドローンを選ぶ際には、粒剤の肥料散布に対応しているかどうかを確認した方がよいでしょう。

授粉専用ドローン|人工授粉で農業の課題を解決

画像引用元:農業分野のドローン活用事例 – ドローンによる溶液授粉|農林水産省

近年、地球温暖化や農薬の影響によってミツバチの活動が低下し、特に気温が高い夏場には自然受粉が困難になる場合があります。頼みの綱の人工授粉も、農業従事者の減少や高齢化により、作業員の確保が課題となっています。

そこで注目されているのが授粉専用ドローンです。授粉ドローンは、従来のミツバチや人による人工授粉を代替する技術です。特に果樹やトマトなど、効率的な授粉が収量に直結する作物で導入が進んでいます。

授粉専用ドローンの活用事例

例えば、梨の人工授粉では、花粉が含まれる溶液をドローンで散布する方法が導入されています。ドローンで樹上約2メートルの高さから溶液を均一に散布し、これまで人力で行っていた作業を大幅に効率化できます。

実際の事例では、10アール(約1,000平方メートル)の人工授粉を4人がかりで1日かけて行っていた作業が、ドローンの使用により約1分で完了しました。作業の効率化により、複数回の授粉が可能となり、着果率の向上が期待されています。

日本工業大学が実施したドローンによるトマトの授粉試験では、着果率が80%を達成し、蜂や人力よりも10%程度向上しました。

参考情報:

農業分野におけるドローンの活用状況 2024年度|農林水産省

農業分野におけるドローン活⽤事例 – ドローンによる梨の溶液授粉|農林水産省

センシング用ドローン|農業のデータ化で生産性を最適化

センシング用ドローンは、農作物の成長状態や土壌の肥沃度、病害虫の発生状況を可視化し、データ分析に基づく農業の効率化を支援します。

【センシングの種類と活用例】

生育センシング

作物の健康状態を上空から視覚的に把握できるのがドローンを使った生育センシングの利点です。例えば、作物が保持する窒素量を解析して、窒素可変施肥(窒素量を調整した肥料散布)の計画を立案できます。これにより、肥料の過剰使用を抑制し、環境負荷を軽減します。

土壌センシング

土壌の表層に含まれる腐植土や肥沃度を調査する際にもドローンが活用されています。従来のトラクター装着型センサーと比較して、広範囲を短時間で調査できるため、効率的なデータ収集が可能です。

収量センシング

収量センシングは、収穫物の状態を観測し、生育状況を把握するための技術です。この技術は、農地をコンバインに装着したセンサーを使用して、生育が良好なエリア、中程度のエリア、問題のあるエリアの3段階にゾーニングする際に活用されます。ドローンの使用により、より広範囲に精度の高いデータ収集が可能となり、生産性向上のための具体的な改善策を講じることができます。

病害虫の早期発見
ドローンで撮影した画像データを解析して、ヨトウムシによる葉の食害や基腐病などの初期兆候を検出します。農薬散布を必要最小限に抑えながら、病害虫の拡大を防げます。

鳥獣被害対策にも活用

有害鳥獣の生息地域や行動状況を上空から調査する用途でもセンシングドローンが役立っています。ドローンにより安全で迅速な調査や追尾が可能となり、地元の猟師と連携してイノシシやシカの捕獲、もしくは駆除を実施します。

農業用ドローンの4つの活用メリット

このセクションでは、農業用ドローンの4つの活用メリットについて解説します。

  1. 作業負担の軽減と効率化
  2. 入りにくいエリアでの活用
  3. 作物を傷めず、品質を守る散布が可能
  4. データ活用で栽培計画が容易

1.作業負担の軽減と効率化

農業用ドローンの最大の魅力の一つは、農薬や肥料の散布作業を効率化できる点です。従来は、人力で手間と時間をかけて行っていた散布作業を、ドローンを使えば広範囲に短時間で行えるようになります。

人力作業と比較すると、散布に要する時間が約5分の1に短縮され、効率性が飛躍的に向上するのが特徴です。GPSを活用した自動飛行機能により、ルートを設定するだけで正確に散布でき、夜間作業や見通しの悪い環境でも効果的に活用できます。

また、ドローンは重機が入れない狭い場所でも作業が可能で、作物の成長を妨げずに効率よく散布できる点も大きな利点です。

2.入りにくいエリアでの活用

農業用ドローンは、立地条件や圃場の形状に左右されない柔軟な対応力を備えています。狭く複雑な形状の圃場や、ぬかるみや水はけの悪い場所など、人や機械が入りづらいエリアでもスムーズに作業を行えます。適切な時期に、必要な量だけを散布できる点は、作物の生育において非常に重要です。

3.作物を傷めず、品質を守る散布が可能

従来の背負い式噴霧器では作業者が圃場内を歩き回るため、根や茎、葉を踏んでしまって作物を傷つけ、病気を広げてしまうリスクがありました。農業用ドローンによる上空からの散布であれば、圃場に直接入る必要がないため、作物へのダメージを最小限に抑えられます。また、手撒きでは均一な散布が難しいという課題がありました。

一方で、ドローンによる散布は均一性が高く、作物を痛めずに効率的に肥料や農薬を撒けるため、結果的に収穫量や作物の品質向上にもつながります。このように、作業効率だけでなく、生産性を向上させる点もドローンの価値ある特性です。

4.データ活用で栽培計画が容易

ドローンは農薬散布だけでなく、圃場の状況をデータ化するツールとしても優れています。空撮したデータを精密に解析し、作物の生育状況や病害虫の発生状況、作物の健康状態や土壌の養分状態を把握して、今後の栽培計画に役立てられます。

さらに、「可変施肥技術」を用いることで、圃場ごとの生育のばらつきや土壌条件に応じた最適な追肥が可能になります。この技術により、肥料の過剰使用を防ぎつつ、環境負荷を軽減でき、農場全体の品質向上や収益性の向上に貢献します。全体を把握しきれないほど規模が大きな農場ほど、このデータ活用の効果は大きく、効率的な農業経営を実現できるでしょう。

農業用ドローンの価格と導入コストの削減方法

農業用ドローンの価格は一般的に100万~300万円と高額なため、個人で購入するのは難しいかもしれません。その場合、周辺の農家と共同購入し、共有して初期費用を削減するとよいでしょう。

また、「ものづくり補助金」や「小規模事業者持続化補助金」などの助成金を活用するなら、購入にかかる負担を軽減できます。これらの補助金は、募集時期や申請要件が異なるため、早めの情報収集と手続きを心がけましょう。

ドローンを活用する農地規模の目安
ドローンの導入が有効とされるのは、7ha以上の農地です。このような規模の農場では、ドローンを活用して人件費や作業時間を削減できるケースが多いとされています。
一方、7ha以下の比較的小規模な農地では、業者に散布作業を依頼した方がコストパフォーマンスが高い場合があります。自身の農地規模を踏まえたうえで、現実的にドローンを運営可能かどうか検討してみてください。

ドローン向け通信サービス

ドローンで農作業を行うためには正確な位置情報が求められます。それを実現するためには、位置を補正し、より高精度な位置情報をリアルタイムで取得する通信(ネットワークRTK)が必要です。

農業用ドローンの運用には通信費も必要です。通信費はHISモバイルの法人向けプランを利用してコストカットできますので、参考にしてください。HISモバイルの農業用ドローンの推奨プランは「データ従量プラン for Biz」です。他社のドローン向け通信プランは、120GBで月額5万円程度ですが、HISモバイルの場合は30GBで月額5,775円でご利用可能です。

農業用ドローンの推奨プラン:データ従量プラン for Biz

新規申し込みや見積りのお問い合わせについてはこちらから

電波法の規制緩和
2023年4月の電波法改正により、ドローンの通信サービスに新たな可能性が広がりました。この規制緩和により、従来は利用が制限されていた高度150m以上の空域でも通信サービスを利用可能になり、ヘリコプターなど他の航空機にも利用対象が拡大されています。これにより、農業用ドローンの運用がさらに多様化し、広範囲での活用が現実のものとなりました。

農業用ドローンに適した通信プラン

農業用ドローンの性能を最大限に引き出すには、安定した通信環境が欠かせません。特に、広大な農地をカバーする際やリアルタイムでデータを送信する場合、高品質な通信プランが重要です。以下は、農業用ドローンに適した通信プランのポイントです。

1.通信対応機種の確認

ドローンによっては、特定の通信事業者のSIMカードでのみ動作確認が取れています。例えば、HISモバイルのSIMカードは、次のような人気モデルで動作確認済みです。

動作確認済み農業用ドローン

メーカー名機種名当社確認メーカー 確認利用用途
DJIAgras T10農薬・肥料散布
DJIAgras T20農薬・肥料散布
DJIAgras T25農薬・肥料散布
DJIAgras T30農薬・肥料散布
XAG JAPAN 株式会社XAG P100農薬・肥料散布
XAG JAPAN 株式会社XAG P100Pro農薬・肥料散布
XAG JAPAN 株式会社XAG P40農薬・肥料散布
XAG JAPAN 株式会社XAG V40農薬・肥料散布
丸山製作所T10農薬・肥料散布
株式会社スリー・エスFLIGHTS-AG V2(※1)農薬・肥料散布

※1 機体シリアルナンバーの末尾が「H」以外

おすすめの農業用ドローンは下記の通りです。

  • 農林水産省が認定する高性能モデル:DJIの「AGRAS」シリーズ
  • 大規模な農地向け:大容量タンク(30L)を搭載した「Agras T30」
  • 農作業を効率化するXAG JAPAN
農業用ドローンの操縦に資格は必要?
農業用ドローンの操縦に資格が必要かどうかは、どのモデルを操縦するかによって変わります。農林水産航空協会が認定する農業用ドローンを使用する場合には、指定の教習所で資格を取得するよう求められています。また、クボタやDJIなどの農業用ドローンを活用する場合も、UTC農業ドローン協議会が認定する施設での技能認定が必要です。
一方で、認定されていない機種については、資格がなくても操作可能です。ただし、安全性の観点から、導入時には民間スクールなどで操作技術や関連法規を学ぶよう強くおすすめします。これにより、安心して効率的にドローンを活用する準備を整えることができます。

参考情報:

動作確認済IoT・農業用ドローン|HISモバイル

農業用ドローンカタログ|農業ドローンの普及に向けた官⺠協議会2024.8

2.通信エリア

農地の場所によっては、通信エリアが不安定な場合もあります。特に山間部や過疎地にある農地は、通信エリアを確認しておきましょう。HISモバイルの通信エリアは、NTTドコモと同じです。通信エリアの詳細は、NTTドコモの公式ホームページをご確認ください。

NTTドコモの通信エリア

3.データ通信量に応じたプラン選択

ドローンが収集するデータ量に応じて、適切なプランを選びましょう。例えば、センシング用ドローンでは、リアルタイムで高解像度データを送信する必要があるため、大容量プランが必要です。一方、簡易的な操作や定点観測に使用するドローンには、低用量プランでも十分な場合があります。

農業用ドローンがもたらす未来

農業用ドローンは、AIやクラウドと連携した高度な農作業管理、リアルタイムでの収穫量予測、さらには遠隔操作による作業効率の向上など、多くの可能性が広がっています。信頼性の高い通信サービスを活用し、農業用ドローンのポテンシャルを最大限に引き出しましょう。

※本記事は2025年1月13日時点の情報を基に執筆しています。

関連の記事

当サイトでは、サイトの利便性向上のため、クッキー(Cookie)を使用しています。サイトのクッキー(Cookie)の使用に関しては、「プライバシーポリシー」をお読みください。

同意する