スマホ新法に期待されるメリットとスマホユーザーへの悪影響の懸念

2025.06.30

施行間近のいわゆる「スマホ新法」(スマートフォンソフトウェア競争促進法)は公正な市場環境や自由な競争を促進するための新たなルールですが、一般のスマホ利用者にとってもメリットのある法律なのでしょうか?その内容や懸念、問題点などを整理します。

今回は、いわゆる「スマホ新法」を取り上げます。

スマホ新法は、正式には「スマートフォンソフトウェア競争促進法(SSCPA)」といって、スマートフォンのOSやアプリストアなどに関する競争を促進し、公正な市場環境を整えることを目的とした法律です。

「スマホソフトウェア競争促進法」は、2024年6月に成立、2025年12月19日に全面施行されることが決まっています。2025年5月に運用ガイドラインが公表され、現時点(2025年6月)ではパブリックコメントを受け付け中です。

新法の主旨である「公正な競争や市場環境」と聞くと、手放しで『歓迎!』と言いたくなりますが、実際には末端のスマホユーザーにとっては、法律の施行によるデメリットも想定されています。

今回は、新法の目的や意義とともに、施行によるデメリットや問題点などをチェックしてみましょう。

スマホ新法とは?その目的や意義

「スマートフォンソフトウェア競争促進法(SSCPA)」、いわゆる「スマホ新法」はどのような目的で施行され、施行するとどのような意義やメリットがあるのでしょうか。

市場環境や、市場における競争が公平であることは重要ですが、施行前の現在、一般ユーザーが新法が施行されていない状況でどんな不利益を被っているのでしょうか。

・そもそもスマホ新法はどうして生まれた?
・スマホ新法がめざすものとは?
・スマホ新法は誰に対して適用される?

そもそもスマホ新法はどうして生まれた?

スマホ新法が誕生してきた背景には、人気ゲーム「フォートナイト」を開発社である米エピックゲームズが、Apple Storeの手数料が割高だとして起こした訴訟がきっかけと言われています。

そこから、問題はエピックゲームズ1社のことに留まらず、そもそも、iPhoneで利用できるアプリがApple Storeでしか入手できないことが不公平であり、その支配的な立場を利用して不法に高額な手数料を課しているのではないか…という議論へと発展しました。

確かに、多くのiPhoneユーザーが感じているように、Apple Storeで有料アプリを購入する際には「少し高いな」と感じることもありますし、もう少し安ければもっと欲しいアプリがあるのに…と思うこともあります。

では、スマホ新法が施行されれば、アプリの価格は下がり買いやすくなるのでしょうか。そうであれば、末端のiPhoneユーザーのメリットは小さくありませんが、果たして新法が目指すものは、アプリが割安になるというだけのことなのでしょうか。

スマホ新法がめざすものとは?

スマホ新法が施行された場合に、法律が目指すのはいったい何なのでしょうか。どのようなことが規定され、どのような効果が期待されているのでしょうか。

スマホ新法の主なポイントは以下の通りです。

(1)アプリストアの開放

現在、スマホ向けのアプリのほとんどは、Apple StoreあるいはGoogle Storeから入手し、その割合は約9割超と言われています。特に、iPhoneはAppleのみが製造販売することから、アプリの入手はほぼすべてApple Store経由となっています。

前述のようにアプリストアの手数料は割高で、小規模のアプリ開発者にとっての負担は大きいのが現実ですが、新法の導入によって、開発者が独自の課金システムを導入できるようになり、手数料の負担が軽減される可能性があるのです。

(2)課金システムの自由化

アプリ内課金の選択肢を広げ、開発者がAppleやGoogleの決済システム以外を利用できるようにすることも重要な目標として掲げられています。

これにより開発者は、アプリ内だけでなく外部での決済を案内できるため、現状、決済時に課される最大30%もの手数料負担を軽減できる可能性があります。

また、ユーザーにとっても、アプリ内課金以外にもクレジットカードやその他の電子決済の利用を選択できるようになり、より柔軟なアプリ購入が可能になります。

(3)OSやブラウザの競争促進

スマホユーザーがよく利用するアプリに「WEBブラウザ」がありますが、Appleではsafari(サファリ)、AndroidではChrome(クローム)の利用者が大多数を占めています。

safariはApple、ChromeはGoogleが開発・提供しているブラウザです。

例えば、iPhoneでもChromeを利用してWEBサイトを閲覧できますし、Edge(エッジ)やFirefox(ファイアフォックス)などのブラウザも利用可能です。しかし、表面的にはChromeやEdgeの見た目で動作していますが、裏側ではAppleのブラウザエンジンである「WebKit」が動作しています。

新法では、こうした状況を打開し、特定の企業が提供するソフトウェアに依存せずより多様な選択肢がユーザーに提供されることを目指しています。

スマホ新法は誰に対して適用される?

では、スマホ新法はいったい誰を対象にした規制なのでしょうか。

ここまでの話の流れでおわかりのように、新法の規制の対象は「Apple」と「Google」です。2025年3月には「Apple」「iTunes」「Google」の3社が指定事業者とされました。

細かく見てみると…

・OS提供企業として

AppleのiOS、GoogleのAndroid

・アプリストアとして

App Store、Google Play

・ブラウザ提として

Safari、Chrome

・検索エンジンとして

Google検索

などが指定されています。

スマホ新法の問題点と懸念

市場環境や競争の公平化の大義名分のもと、施行が半年後に迫っているスマホ新法(スマートフォンソフトウェア競争促進法)ですが、法律が施行されることによるデメリットや問題点を指摘する声もあります。

スマホ新法が施行されることにより、スマホユーザーが直面するであろう問題点をいくつかピックアップしてみます。

<h3>セキュリティ面でのリスク懸念</h3> 

スマホ新法の導入により、セキュリティ面でいくつかの懸念が指摘されています。

・脆弱なアプリの増加のリスク

公式ストア以外のアプリストアが普及すると、セキュリティチェックが不完全なアプリが流通するリスクが高まります。

・違法アプリや有害アプリ増加のリスク

アプリストアとしての規制が緩くなることで、オンラインカジノアプリやポルノアプリが一般利用者が入手しやすい状況になる可能性が高まります。

・マルウェアのリスク

公式ストアの厳格な審査が緩和された場合、悪意のある有害アプリが増加するリスクが高まります。

※マルウェアとは
悪意のあるソフトウェアやプログラムの総称で、ウイルス/ワーム/トロイの木馬/スパイウェア/ランサムウェアなどがあります。

・スマホのセキュリティの低下リスク

サイドローディング(公式以外のストアからのアプリインストール)が増加することで、スマホのセキュリティが低下する可能性が高まるリスクがあります。

プライバシー保護への懸念

アプリストアの開放によって、新しいアプリストアや決済システムの導入により、個人情報の管理が複雑化する可能性があります。

公式以外のアプリストアが増えることで、個人情報の管理が統一できず情報漏洩の可能性が高まるリスクがあります。

青少年へのフィルタリング機能低下の懸念

スマホ新法の導入により、青少年向けのフィルタリング機能に影響が出る可能性が指摘されています。特に、iPhoneのブラウザエンジンの変更については重大な懸念が示されています。

・フィルタリング機能の無効化

現在、iPhoneではAppleの「WebKit」ブラウザエンジンが100%を使用されています。見た目はGoogle Chromeを利用しているようでもバックグランドで動作しているブラウザエンジンは「WebKit」です。

Appleのフィルタリング機能は、この「WebKit」エンジンを経由する通信を制御することで実現しているため、スマホ新法によって他のブラウザエンジンの利用が可能になると、従来のフィルタリングの設定が適用されなくなる可能性があります。

・違法/有害コンテンツへのアクセス

スマホ新法下ではフィルタリングが機能せず制御が難しくなることから、青少年がオンラインカジノ等の違法コンテンツや、ポルノアプリ等の有害コンテンツにアクセス・入手できてしまうリスクが高まります。

決済・契約の複雑化への懸念

スマホ新法の導入により、決済や契約の複雑化が懸念されています。

・決済方法の多様化による混乱

公式ストア以外の決済システムが導入されることで、ユーザーがどの決済方法を選べばよいか迷う可能性があります。

・ストア多元化による契約管理の複雑化

アプリストアが複数存在することで、どこで契約したか把握しづらくなり、サポートや返金の手続きが複雑化する恐れがあります。

・ストアによるアプリ価格の違い

アプリストアによっては同じアプリが異なる価格で販売される可能性があり、ユーザーのストア選択が難しくなるリスクがあります。

先行する欧州のデジタル市場法DMA

我が国のスマホ新法(SSCPA)と同じような考えの元、2024年3月には欧州EUで「デジタル市場法」(以下DMA)が施行されました。

DMAの目的は、大規模なデジタルプラットフォームの市場支配を抑え、市場の公正な競争を促進することであり、その目指すところは「SSCPA」と一致しています。

特に、Apple、Google、Amazon、Meta、Microsoftなど情報やアクセスを管理する立場にある、いわゆる「ゲートキーパー」企業に対し、競争を阻害する行為を禁止し、透明性を確保する義務を課しています。

しかし、DMA導入によって新たなリスクが生じている現実もあります。

デジタル市場法DMA導入による利用者リスクの増加

DMA導入には、AppleやGoogleのアプリストア以外の選択肢が増え、より多様なアプリを利用できるようになったり、課金の選択肢が広がり、消費者がより柔軟な支払い方法を選べるようになる等のメリットがあります。

その反面、従来はプラットフォーム提供者が管理していたサービスを外部に開放することで管理が行き届かなくなり、例えば有害コンテンツがプラットフォーム上に侵入するリスクがあります。

Googleの調査によれば、サイドローディング(公式のアプリストアを経由しない)によるアプリ入手が可能なAndroidでは、マルウェア(悪意のあるソフトウェアやプログラム)の約95%以上がサイドローディングによるものとされています。

また、DMA導入後には、それまで存在しなかったiOS向けポルノアプリが、App Store以外のアプリストアでの配布が確認されています。ちなみにそのアプリストアでは人気ゲーム「フォートナイト」も配布されており、ティーンエイジャーの利用者が多いアプリストアであったとのことです。

これらを言い換えると、利用者は、市場の競争の公平化によって自由にアプリやサービスを選択できる「自由」を手に入れた一方で、有害コンテンツやマルウェアのリスクに晒されやすくなったとも言えます。

SSCPAとDMAの違い~日本独自の配慮

先行した欧州のDMAでは、施行後に様々な問題が生じていますが、日本のSSCPAでは、欧州DMAのこうした問題点を参考にわが国独自の配慮が見られます。

最も大きな違いは、DMAの対象範囲は広範で、SNSやメッセージング、クラウドなども含めているのに対して、SSCPAでは、スマホ利用に特に必要なソフトウェアに限定し、OS・アプリストア・ブラウザエンジン・検索エンジンのみを対象としている点です。

この事により、以下のような点においてDMAにない配慮が見られます。

セキュリティ・プライバシーの例外規定

SSCPAでは、第7条において「サイバーセキュリティ確保・プライバシー保護・青少年保護」を目的とする場合には機能開放を制限できると明記されています。

とはいえ、プラットフォームを提供する企業等が恣意的(客観的な基準やルールよらず勝手に判断すること)に例外を主張することを防ぐため、規制当局が厳しく審査する姿勢を示しています。

このため、AppleやGoogleが手前勝手に機能制限を行うことはできず、制限する正当な事由を説明し、当局の承認を得る必要があります。

公証サービスの導入

SSCPAでは、AppleやGoogleの公式アプリストア以外のサードパーティ運営のアプリストアに対して、開発者証明書(公証)を付与する制度を導入する予定です。

これにより、アプリの安全性を担保しながらストア開放を進めることができ、公式なアプリストアでなくても利用者にとって安全運用が可能になるとされています。

欧州DMA施行下で生じている、公式アプリストア以外のアプリのリスクを軽減する効果が高いと見込まれています。

必ずしも無料開放ではない

DMA施行下では明文化はされていませんが、サードパーティの参入障壁を下げ自由な競争を助長するため、原則「無料開放」が求められますが、SSCPAでは機能やサービスの開放にあたっては必ずしも無料ではなく、必要に応じて一定のコスト負担が認められます。

安全なアプリの流通や公証サービスの維持に必要な実費程度のコストを認める方向です。

DMAはより自由度の高い開放を求めており、プラットフォーマーによるコスト請求には慎重な姿勢であるのに対し、わが国では安全性や利用者保護の観点から独自の配慮が見られます。

スマホ新法まとめ〜ユーザーにメリットはある?

スマホ新法は、スマートフォンのOSやアプリストアなどの「特定ソフトウェア」に関する競争を促進し、公正な市場環境を整えることを目的とした法律です。特に、AppleやGoogleのような大手IT企業による市場の寡占状態を是正し、アプリ開発者やユーザーにより多くの選択肢を提供することを目指しているとされています。

新法の施行によって、ユーザーがより透明性のあるサービスを利用できるようになり、利便性の向上を目指しているのですが、現時点ではデメリットや問題点の指摘も少なくなく、利用者にとっては必ずしも良いことばかりではない…といった印象を持ちました。

それは、新法導入に至る議論が、アプリ制作会社による「公式アプリストアの手数料が割高だ」というところを発端にしているためか、「市場の競争の公平化」という目的が、どうも利用者目線ではなくアプリ開発者(企業)目線になってはいないか…という点です。

本項でも紹介したように、現時点で「セキュリティやプライバシー保護」「青少年向けフィルタリング」「有害コンテンツやマルウェアのリスク」など、様々な懸念が指摘されています。

こうした懸念が現実化した際に悪影響や損害を被るのは一般の利用者です。

スマホ新法(SSCPA)の施行期日は2025年12月19日です。それまでに、こうした懸念や問題点が解消されなければ、利用者にとってメリットのある「新法」にはなり得ないのではないかと感じます。

私見で言うなら、これまでAppleの庇護の元で安心してiPhoneを利用してきた身からすれば、1つ1つのアプリや、アプリストアの利用におけるリスクの有無や生じたデメリットへの責任などを一般利用者が負うのは難しいのではないかと感じます。

ぜひとも、現在指摘されているような懸念や問題点はすべてクリアした上で、真に利用者フレンドリーな新法にして頂きたいと思います。

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